pdf 大阪府立成人病センター 缓和ケア?マニュアル Ver 10

大阪府立成人病センター 缓和ケア?マニュアル Ver 10   サイズ:1.26 M | 見る:42 | のページ:49

大阪府立成人病センター緩和ケア・マニュアル Ver 1.0 平成 19 年 6 月 緩和ケアチーム編集 はじめに 大阪府立成人病センターでは、がんの診断・治療に関して最新の優れた技術・情報を提供するべく努力を重ねています。近年のわが国におけるがん統計の推移をみますと、がんは昭和 56 年から死因の第 1 位を占めており、平成 16 年には総死亡...  
大阪府立成人病センター緩和ケア・マニュアル Ver 1.0 平成 19 年 6 月 緩和ケアチーム編集 はじめに 大阪府立成人病センターでは、がんの診断・治療に関して最新の優れた技術・情報を提供するべく努力を重ねています。近年のわが国におけるがん統計の推移をみますと、がんは昭和 56 年から死因の第 1 位を占めており、平成 16 年には総死亡の 31.1%を占めています。この多発するがん患者の苦痛は疼痛・食思不振・呼吸苦・全身倦怠感などの身体的苦痛はもとより、不安・不眠・抑うつなどの精神的苦痛、治療費・生活費等といった経済的苦痛、さらに休職や退職等といった社会的苦痛をも生じることがあります。これらの苦痛に対し医療機関は単に身体的治療を実施するだけではなく、精神症状の緩和や一定の限界はあるものの経済的・社会的な問題にも相談に乗るなどの対応を実施する必要があります。このような全人的な医療対応の一環として「緩和医療(緩和ケア) 」への期待が高まりつつあります。 また、昨年 6 月に「がん対策基本法」 (平成18年6月23日公布;平成19年4月1日施行)が制定されていますが、同法の 16 条には「がん患者の療養生活の質の維持向上」を目的として、①緩和医療を治療早期から導入する事、②在宅がん医療ために地域連携協力体制を確保する事、③医療従事者に対して知識・技術の「均てん化」を図る機会を確保する事、などが挙げられています。つまり、これまで軽視されがちだった種々の苦痛を取り除く緩和ケアを「早期から適切に行う」と明記し、国の基本政策として緩和ケアをがん診療の最重要課題のひとつと定めています。 このように「緩和ケア」の充実が急務となる状況の中で、緩和ケアの基本な知識・技術を簡潔に示し、緩和ケアが誰でも容易に実践できる事を目的として、本マニュアルを作成上梓致しました。 本書が皆様の日常診療で実際に役立つマニュアルになればと願っております。そこで、本書を是非積極的に御活用頂き、内容や使い勝手等に関しまして忌憚のない御意見を頂ければと存じ上げます。更なる改定を重ねてより良いマニュアルにしてゆきたいと存じますので、何卒宜しくお願い申し上げます。 平成 19 年 6 月 大阪府立成人病センター 緩和ケア室長 柏木 雄次郎 目 次 ターミナルケアから緩和ケアへ 1 疼痛緩和 WHO ラダー 3 鎮痛薬の選択 3 オピオイドの増量と減量 5 オピオイド製剤の剤型とプロフィール 6 疼痛の種類 7 鎮痛補助薬 7 鎮痛補助薬の分類 10 オピオイド・ローテーション 11 持続静注・皮下注 11 症状緩和 骨転移の管理 14 腹水の管理 17 腸閉塞の管理 19 胸水の管理 22 呼吸困難 23 リンパ浮腫のケア 24 精神的問題 適応障害 26 うつ病 27 せん妄 29 看護 疼痛 33 呼吸困難 34 全身倦怠感 34 家族ケア 35 副作用対策 36 リハビリテーション 理学療法の目的 41 実際的方法 42 医療ソーシャルワーカーによる社会的支援 45 1 ターミナルケアから緩和ケアへ 従来がん患者に対して、われわれ医療者は病気を治す治療(cure:キュア)を提供することに、心血を注いできた。しかしがん患者の半数以上は、治療の甲斐なく病気が進行し死を迎えていく。このような進行した“末期がん患者”が死を迎えるまでの間に、病気を治す治療の代わりに、care(ケア)や介護を主体とした医療を“ターミナルケア”として提供してきた。しかし、キュアを目指す治療からケアへの移行は従来スムースに行われず、患者や家族にとっては唐突に“さじを投げられた”という印象を与えてきた。このため、治療を断念したくない患者は病状を正しく医療者に伝えず、苦痛を我慢する傾向にあった。 一方がん患者のかかえる苦痛は、末期だけに限らずがんと診断される時点から存在する。この苦痛に対して全人的に対応する立場から“緩和医療・緩和ケア”という概念が普及してきている。緩和ケアは、がん患者の肉体的苦痛に止まらず、精神的な苦痛や社会的な問題の解決を図るものであり、決して「治療しますか?緩和ケアにしますか?」という二者択一のものではない。 図2に示すように治療と緩和ケアの比重は病気の進行に伴い、なだらかにシフトすることにより、違和感や抵抗感を患者に与えないことが必要である。 がん患者を診療する場合、各医療者はこの概念を念頭に置き、自らが緩和ケアを提供するとともに、自らが解決し得ない問題が発生した場合は、直ちに専門チーム(緩和ケアチーム)と協力して診療にあたるべきである。 キュアを目指す治療緩和ケア キュアを目指す治療ターミナル ケア 医師:今日で治療はやめて別の病院でターミナルケアをしてもらってください。患者:治療を続けてください!体はピンピンしています。 医師:痛みの治療と一緒に病気の治療もしていきましょう 医師:痛みの治療の割合を増やしましょう。 2 疼痛緩和 3 WHOラダー 世界中のがん性疼痛が、開放されることを目的とした、痛みの強さに応じた鎮痛薬の投与方法。 • 非オピオイド鎮痛薬で、疼痛が残存・増強すれば、第 II 段階をとばして、第Ⅲ段階の強オピオイドを用いる(弱オピオイドは強オピオイドが入手できない国を配慮した段階である) 。 • オピオイド(中枢での除痛)使用時も、非オピオイド鎮痛薬(末梢での除痛)を併用する。 • レペタン、ペンタジンは、オピオイドに拮抗し、精神依存をまねきやすいため、用いない(モルヒネと併用すると痛みが増強する) 。 WHO三段階除痛ラダー非オピオイド鎮痛薬 (NSAIDs、アセトアミノフェン)+副作用予防薬±鎮痛補助薬① オピオイドの受け入れの悪い症例②リン酸コデインによる除痛が、不十分③ 強オピオイド開始後、種々の副作用で使用に耐えない(不耐性)症例ⅠⅢⅡ痛みの残存、増強軽度の痛み軽度~中等度の痛み中等度以上の痛み①③②弱オピオイドリン酸コデイン強オピオイドモルヒネオキシコドンフェンタニル 鎮痛薬の選択 非オピオイド鎮痛薬 痛みの原因となるプロスタグランジンの産生を抑制する。 1. 経口投与 長期的に使用可能な消化器、腎臓障害の少ない薬を選択。次の 3 種類から選択。 ① プロドラッグ(ロキソニン): 消化管から吸収後、体内で活性化され作用するので、胃腸障害が少ない。 ② COX-2 選択的 NSAIDs( ハイペン 200mg 錠、 モービック 10mg 錠) : 胃腸障害、腎機能障害、血小板障害が少ない。ハイペンは 2 錠 分 2、モービックは 1 錠 分 1。 ③ アセトアミノフェン(カロナール 200mg 錠、カロナール 20%散) : 胃潰瘍、化学療法中の骨髄抑制のある症例に投与可能。肝機能障害に注意。分 4-6 で、2000mg/日以上で有効。 4 • 非オピオイド鎮痛薬には、 天井効果 (増量しても鎮痛効果は増加せず、副作用のみ増加する こと)がある。 • カロナールは 1 日 4000mg( 20 錠) 、ボルタレンは 1 日 100mg( 4 錠)前後まで。 • ボルタレン、インドメサシンは、鎮痛作用は強力だが、胃腸障害が強いので、長期投与には 適さない。また、解熱作用が強く、全身状態の悪い症例ではショックをおこすことがある。 2 .非経口投与 ① 坐剤: ボルタレン、インダシン座薬。鎮痛作用は、最大だが、副作用が強い。分 2-3 で、 できるだけ少量で投与。インダシン座薬は水溶性で、アンペック座薬との併用で、 モルヒネの吸収が抑制される。 ② 注射剤: ロピオン。分 2-3 で投与。脂肪乳剤に 3A 溶かして、24 時間持続静注可能。 非オピオイド鎮痛薬 + 弱オピオイド(リン酸コデイン) オピオイドの受け入れが悪い症例やオピオイド不耐性症例が適応となる。 リン酸コデイン: 体内で代謝されて約 10%がモルヒネ となり、鎮痛効果を示す。分 4-6 で投与。80mg/日前後から 開始し、300-400mg/日で天井効果あり 。モルヒネへの変更は、1 /6 量とする。 非オピオイド鎮痛薬 + 強オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル) NSAIDs、リン酸コデイン でとれない痛みが適応となる。 1. 経口投与 ① オキシコンチン錠: 腎機能障害でも使用可能であり第一選択。 20mg/12 時間毎 + NSAIDs で開始。 高齢、全身状態低下例では、10mg/12 時間で開始。 徐放製剤のため、かまずに内服。 便中に薬の抜け殻(ゴーストピル)を認めることがあるが、成分は放出されている。 分 3(8時間毎)の投与が良い症例が約 10%あり。 レスキューは、1日量の1/6量のオキノーム速放散(あるいは1/4のオプソ)を使用。 ② モルヒネ徐放薬: ( MS コンチン、カディアンカプセル、パシーフカプセル、モルペス細粒、ピーガード ) 30mg/日+ NSAIDs で開始。 高齢あるいは全身状態低下例では、20mg/日で開始。 MSコンチン、モルペスは12時間毎投与。 カディアン、パシーフ、ピーガードは 24 時間毎の投与。 5 • モルペス細粒は、経管投与可能。 • パシーフは投与 1 時間後に血中濃度最大になるので、効果判定が早い。 • ピーガードは食事の影響を受けるので、眠前投与。 2 .非経口投与 ① 経皮吸収型製剤:デュロテップパッチ2.5mg(フェンタネスト) モルヒネ製剤に比べて嘔気や便秘の副作用が出にくいこと、3日に1回の張り替えで済むことなどから、消化器がん患者に対して一般病院で汎用されているが、モルヒネ、オキシコンチンなどの切り替え薬として保健承認されており、 強オピオイドの第一選択ではない 。 脂溶性が高く体温や発汗などにより、 吸収率の変動がきわめて大きい ので、限定して使用すべきである。 発熱・皮膚温の上昇(電気毛布など)や血圧低下により血中濃度が数倍に上昇することがあり、せん妄を来しやすい。 また、微調整が困難なため、痛みの変動が激しい患者には向かない。 レスキューは、デュロテップ 2.5mg あたりオプソ 10mg か、オキノーム 5mg あるいは、フェンタネスト0.1mgの点滴静注(もしくは舌下投与)など を用いる。 使用法の詳細については、オピオイドローテーションの項 参照。 ② 注射剤: 持続静注・皮下注の項 参照 経口投与が困難な時。痛みを即時に緩和したいときが適応。 塩酸モルヒネ注 10mg/ml、50mg/5ml、200mg/5ml:経口薬の 1/2 量から開始する。 フェンタネスト注 0.1mg/2ml、0.25mg/ 5ml:デュロテップ 2.5mg は 0.6mg/日に相当。 ③ 坐薬:アンペック坐薬 (塩酸モルヒネ坐薬) 10mg、20mg、30mg 経口モルヒネからの切り替えでは 1/2-2/3 量で変更。 坐薬のみでの長期投与は困難。レスキューは 1 日量の 1/6 の速効性モルヒネ製剤。 オピオイドの増量と減量 オピオイド投与量 30~ 50%減量・・ 30~ 50%増量・・ 痛みなし・・、眠気あり・・ 痛みあり・・、眠気なし・・• 不快な眠気が続く場合、オピオイドローテーション。 • レスキュー有効 → オピオイド増量 • レスキュー無効 → オピオイド耐性痛として補助剤の併用 6 用法 0.5ml×3回/日 4時間毎 (レスキューは1時間毎でも可) 1日1回 1日2回 1日1回 1日1回 1日2回 1日2回 8時間毎 3日に1回 持続時間 3~5時間 24時間 8~12時間 24時間 24時間 8~12時間 12時間 6~10時間 72時間 効果判定 1時間 1時間 2~4時間 6~8時間 4時間 2~4時間 2~3時間 1~2時間 24時間 最高血中濃度 30分~60分 1時間 2~4時間 6~8時間 4時間 2~4時間 2~3時間 1~2時間 24~48時間 吸収開始 10分以内 10分以内 1時間 40~60分 1時間 1時間 12分 20分 2時間 直ちに 直ちに レスキューとしての使用 ◎ ◎ × × × ○ × ○ ○ 当院採用品 5mg、10mg ― 2.5mg、5mg 30mg、60mg、120mg 10mg、30mg、60mg 20mg、30mg 20mg、30mg、120mg 10mg、30mg 5mg、10mg、20mg、40mg 10mg、20mg 2.5mg、10mg 10mg、50mg、200mg 0.1mg 薬品名 アヘンチンキ 速効型モルヒネ製剤 塩酸モルヒネ散 塩酸モルヒネ水(院内製剤) オプソ内服液 塩酸モルヒネ錠 速効型オキシコドン製剤 オキノーム散0.5% 速効型+持続型モルヒネ製剤 パシーフカプセル 持続型モルヒネ製剤 MSコンチン錠 カディアンカプセル ピーガード錠 モルペス細粒 持続型オキシコドン製剤 オキシコンチン錠 速効型モルヒネ製剤 アンペック坐剤 持続型フェンタネスト製剤 デュロテップパッチ モルヒネ注射剤 塩酸モルヒネ注 フェンタネスト注射剤 フェンタネスト注 塩酸モルヒネ錠は成人病センターでは未採用 剤型 経口 坐薬 貼付 注射 オピオイド(麻薬性)製剤の剤型とプロフィール 7 疼痛の種類 侵害受容性疼痛 痛いと感じる部分に原因がある。がん性疼痛の大半の痛み。NSAIDs、 オピオイドが有効 。 ① 体性痛 : 体の表面、 骨、 筋肉などに由来する痛み。 限局性で抗打痛が認められることが多い。 ② 内臓痛 : 実質臓器の牽引や腫脹による被膜の伸展や、管腔臓器の内圧上昇などによって 起こされる痛み。膵臓がんなどのような腹部内臓の痛み。 神経障害性疼痛 (ニューロパシック・ペイン) • 末梢神経や中枢神経の損傷や障害によってもたらされる痛み。 • 損傷した神経の走行に沿った部位が痛む。 • 患者さんは「今までに感じたことのない痛み」「暖めると改善する痛み」と訴える。 • オピオイドが効きにくい ので、鎮痛補助剤やブロックが必要になる。 • がん患者の30-40%に出現(米国疼痛学会ガイドライン)。 • 持続痛(burning sensation)と電激痛(shooting pain)にわかれる 。 鎮痛補助薬 オピオイドに抵抗性の痛み対して、併用することで、鎮痛効果を高める薬剤。 薬の選択、使用方法などが難しく、緩和ケア専門医に相談することが望ましい。 ① 痛みの種類 (安静時痛か動作時痛、 持続痛か電激痛) 、 内服可能か否か、 目標は退院か転院か、眠気の有無、全身状態などを考慮に入れて使い分ける。 ② まずは、安静時の痛みの軽減のために、抗うつ薬、抗痙攣薬がもちいられる。ともに眠気の副作用が強く、内服薬のみのため、眠気のない全身状態の比較的良好な症例が対象となる。この2種類の薬は、おもに安静時痛に有効である。 ③ これらの薬が効かない、あるいは内服できない症例では、抗不整脈薬、NMDA 受容体チャンネル拮抗薬を用いる。持続痛、電撃痛ともに効果が期待できる。 ④ 動作時痛には、抗不整脈薬、NMDA 受容体チャンネル拮抗薬が有効である。 8 鎮痛補助薬の使用方法コルチコステロイド三環系抗うつ薬抗痙攣薬抗不整脈薬メキシチレン、リドカインアモキサン、トリプタノール安静時の痛み動作時の痛みNMDA受容体チャンネル拮抗薬セロクラール、ケタラール持続痛突出痛ガバペン、ランドセン、テグレトール、デパケン硬膜外麻酔リンデロン、デカドロン持続痛 突出痛持続痛 突出痛 ① コルチコステロイド 腫瘍による神経圧迫、骨転移痛に有効、全身倦怠にも有効。 リンデロン、デカドロン(錠・注) :1~4mg を使用。 長期投与では、高血糖、ミオパチー、骨粗しょう症、易感染症などが問題。予後 2~3 ケ月からの投与開始が望ましい。 ② 抗うつ薬 持続的な異常感覚に有効。効果発現まで、7 日前後必要。眠気・口渇・便秘が問題となる。 アモキサン25mg カプセル:1カプセル眠前から開始し適時増量する。最大 1 日 6 錠。 トリプタノール 10mg 錠 :2 錠 眠前から開始。最大 1 日7錠程度。 ③ 抗痙攣薬 間欠的な突出痛に有効。眠気が問題となるため眠前投与から開始する。 ガバペン錠( 200,400mg)錠 : 200mg 眠前から開始し、1 日 1 錠づつ増量し分 3(8 時間)投与とする。800mg ぐらいから効果が期待され、1200mg 程度を目標とする。 欧米では、神経障害性疼痛の治療薬の第一選択薬である。 ランドセン 1mg 錠 : 1/2 錠 眠前から開始し、4 錠 分 4 まで、増量可。 ④ 抗不整脈薬 持続的な異常感覚、 間欠的な突出痛ともに有効。 眠気の副作用がない。 すぐに効果が出る。 メキシチール 50mg カプセル : 150mg 分 3 から開始。600mg まで増量可。副作用として胃部不快感などの消化器症状が多い。 タンボコール 50mg 錠 : 100mg 分 2 から開始。 メキシチールよりも除痛効果が大きいが、心刺激伝導系の抑制作用が強いので、心不全例等は禁忌である。 キシロカイン・リドカイン : 持続静注・皮下注の項 参照 。 9 ⑤ NMDA受容体チャンネル拮抗薬 安静時痛、動作時痛ともに有効。すぐに効果が出てくる。 セロクラール 20mg 錠 : 3 錠 分 3 から開始。副作用が少ない。 ケタラ-ル内服 : 50mg 分 4 から開始し、500mg/日まで増量可。 * ケタラールは 2007 年 1 月から麻薬指定となった。内服の保険適応はないため、外来処方は困難である。 ケタラール注 : 持続静注・皮下注の項 参照。 鎮痛補助薬ラダーアモキサピン(アモキサン)NA>ST薬単独かクロナゼパムと併用初回25mg眠前50mg程度で有効。ケタミン(ケタラール)副作用として眠気、ふらつき、精神症状効果発現が早い。ケタラール内服200mg分4セロクラ-ル3T分3よりケタラ-ル初回25-50mg。300mgまで増量可リドカインメキシチレン眠気がない。高容量必要なケースあり高容量で精神症状出現あり初回メキシチレン150mg分3600mg分3まで増量初回リドカイン100-200mg1200mg程度まで増量可(血中濃度1.5-5.0μg/ml)ギャバペンチン(ガバペン)神経障害性疼痛の第一選択薬。初回200-300mg眠前800mg前後から有効抗痙攣薬(下降性抑制系以外)三環系抗うつ薬(下降性抑制系)抗不整脈薬(上行性興奮系)NMDA受容体チャンネル拮抗薬(NMDA阻害薬) 10 11 オピオイド・ローテーション 効果が、不十分な時あるいはせん妄、眠気、吐き気などの副作用のコントロールが難しい時に、疼痛管理および副作用の改善を目的に他のオピオイドに変更すること。 ① 投与経路の変更 経口困難となれば、オキシコドンからモルヒネ、フェンタネストの非経口投与に変更 ② 鎮痛効果が不十分 鎮痛効果はモルヒネ、オキシコドン>フェンタネストなので、フェンタネストで鎮痛効果が不十分な時に、モルヒネ、オキシコドンに変更する。 ③ 難治性の副作用 (副作用対策を十分に行なったうえでの副作用) 少なくとも、難治性の便秘は、フェンタネストに変更すると改善が期待できる。 ④ 呼吸困難感の改善 フェンタネストから、モルヒネ、オキシコドンに変更。 • 鎮痛力価: 内服モルヒネ 60mg=内服オキシコドン 40mg =デュロテップパッチ 2.5mg=フェンタネスト注 0.1mg× 6A 塩酸モルヒネ注 10mg× 1A=フェンタネスト注 0.1mg× 2A • フェンタネストからモルヒネ、オキシコドンへの切り替えは、一度耐性になっていた副作用 がでることがあるので、換算表の 20~ 30%減でローテートする。 • デュロテップパッチは、貼ってから 12 時間は吸収されないと考えて、補充する。 • デュロテップパッチは、剥がしてから、 18 時間効果が持続すると考えて、切り替える。 • 大量の場合は、数回に分けて、ローテートする。 持続静注・皮下注 内服が不能になってきた場合、持続静注や皮下注によりオピオイドや補助剤を投与する方法がある。特に疼痛緩和を図るだけであれば 23G 程度の翼状針で大半の薬剤が投与可能であり、血管を確保しづらい患者に対しても容易に投与が可能である。 シリンジポンプや PCA ポンプ *を用いればレスキュー投与も可能である。皮下注の場合四肢ではなく躯幹部に針を刺入するが体位変換の影響を受けにくい方向に刺す。清拭や入浴の際に短時間抜去し再刺入することが可能である。 薬剤投与の場合、時間あたり 1ml 程度が限度である。 参考) 大量皮下注入法 (hypodermoclysis:HDC) 血管確保が困難な患者で、非経口的に水分補給が必要な場合に有用な方法である。また、家族の希望によって患者への負担が少ない方法での補液を施行する場合にも使用できる。 具体的な方法としては、 23 ゲ-ジの翼状針またはテフロン針を腹部皮下(浅すぎても深すぎて12 も痛みを生じる可能性がある)に刺入固定して生理食塩液やラクテックなど 200~ 500ml*を、 20~ 100ml/hr 程度の速度で注入することである。一時的に局所の浮腫を認めるが、時間の経過とともに吸収される。体動が激しくなければ金属針でも留置できる。 * 2007 年 1 月時点で緩和ケア外来から 1 台貸し出し可能。 ** 海外では生理食塩水 1 日あたり 1000ml の投与の RCT が報告され安全性が確認されている。 1. オピオイド 塩酸モルヒネやフェンタネストが用いられる。 経口投与から変更する場合は1日投与量の2分の1から開始する。 レスキューは 1 時間量を用いる。 持続皮下注の場合穿刺部位に発赤や硬結を生じたら吸収が悪くなるので穿刺部位を替える。 オキシコンチンやデュロテップ使用時のレスキューとして、オプソによる眠気が不快な場合はフェンタネストの点滴静注( 1A/15 分)を用いることもできる。 2. 鎮痛補助剤 補助剤として持続静注・皮下注が可能な薬剤はケタミン・キシロカインである。 ① ケタミン(静注用ケタミン 10 200mg/ 20ml) 体動時痛など体制痛に有効と考えられている。 オピオイドに対する耐性を抑制すると言われており、オピオイドとは必ず併用する。 皮膚刺激が強いため皮下注の場合発赤や硬結がでることがあるため、主に持続静注で用いる。眠気を催さないように開始時は 50→ 75→ 100→ 125mg/日と 1 日づつ(緊急の場合は 2 時間づつ)投与量を上げていく。 100mg/日程度から効果が出る。 300mg/日を超えると眠気が出てくる。 ② キシロカイン (静注用 2%キシロカイン 100mg/5ml) 体動時の痛みやがん性腹膜炎の痛みに効果があるとされている。1 A を 15~ 30 分程度で点滴し効果を確認する(キシロカインテスト) 。 効果がある場合は持続点滴あるいは静注で 500mg/日程度から開始し 1500mg/日程度まで増量可能である。胃部不快感、食欲不振と眠気の副作用がある。 参考資料 EB Bruera, et al. Effects of parenteral hydration in terminally Ill Cancer patients: A preliminary Study. JCO 2005 23(10):2366-2371 淀川キリスト教病院ホスピス編 緩和ケアマ・ ターミナルケアマニュアル改訂第4版、大阪、2001. 13 症状緩和 14 骨転移の管理 骨転移はがん末期患者のQOL低下の大きな要因であるが、生命への影響が小さいことから治療努力が遅れがちである。疼痛や麻痺、これらによる著しいQOL低下は、早期発見・早期治療により回避出来るケースが多いため、高リスク患者では骨シンチや全脊柱MRIによる定期的な経過観察を行い、発見時にはすぐに整形外科へ相談することにより、適切な早期治療を主科と共同して行うべきである。 以下に骨転移に対する緩和ケアを概説するが、QOL回復は必ずしも容易ではなく、QOLが低下してからでは遅いことを再認識してほしい。 ① 骨転移の痛みと対策 骨転移から生じる痛みには種々の原因が絡んでおり、その正確な診断が症状緩和の第一歩である。 1. 骨が脆弱化することによる痛み 骨の力学的強度が、転移による破骨細胞の活性化による骨吸収により脆弱化が進むと疼痛が出現(切迫骨折とよばれる状態)し、さらに進むと病的骨折を生じる。 診断:疼痛部位の単純レントゲン、体幹部ではCTなど 対策:転移の早期発見。まず局所の安静や免荷・ビスフォスフォネート製剤点滴 放射線治療・整形紹介の上コルセット作成・手術 2. 神経圧迫による痛み 脊椎転移では転移巣が脊柱管側に膨隆し、神経圧迫を生じ、痛みやしびれ、重度になると麻痺を引き起こす。 診断:全脊椎単純MRI 対策:ビスフォスフォネート製剤点滴・放射線治療 神経根の刺激症状が強い場合は、まずNSAIDs投与。効なければステロイドパルス療法を 考慮 3. 神経浸潤による痛み 脊椎転移・骨盤転移などから骨外に進展し神経浸潤を生じると著しい疼痛を生じる。 診断:病変部位のMRI(基本的に単純のみでよい) 対策:神経浸潤による痛みは非常に強いのでオピオイドは、ほぼ必須で早急に開始する。 しばしば経口モルヒネ換算で120mg以上を要し、神経因性疼痛時の補助薬を併用する。 放射線治療の適応考慮 4. 狭義の骨転移痛(骨痛) 上記3項が認められないにも関らず、純粋に骨転移そのものが有痛性となることがある。 診断:上記3病態の除外。尿中NTX(骨吸収マーカー)測定 対策:まずビスフォスフォネート製剤点滴 (とくにNTX高値症例で有効なことが多い) NSAIDs投与。除痛効果が不十分ならopioidを少量から投与考慮。 放射線治療(狭義の骨転移痛のみでは緊急度は低い) 15 5. 治療後の骨変形に起因するもの 例えば過去に放射線治療を行なったが、病的骨折後の変形が遺残し、脊髄や神経根を圧迫したり、関節近傍の変形から変形性関節症(いわゆるOA)が生じる場合など。 診断:病変部位の単純レントゲン・CT・MRIなど 対策:治療後で活動性の病変がなければ脊椎であれば種々のブロックが可能 コルセットなどの装具療法 通常のOAに準じたリハビリ室での物理療法(ホットパックなど) 6. その他: 非骨転移性疼痛の関与 高齢者では腫瘍とは関係なく加齢性の変化に伴う痛みが生じている場合がある。変形性脊椎症・変形性関節症など。 診断:骨シンチ・病変部位のMRI 拡散強調画像による腫瘍性病変の鑑別が必須 対策:まずNSAIDsと疼痛部位の安静保持 疼痛緩和得られにくいときは整形外科紹介 ② 神経麻痺が生じた場合 力が入らなくなった、しびれが増強してきた、立てない、などの訴えを耳にしたら、可能な限り早く整形外科へ紹介 。 立てなくなってから48時間以上経過すると、寝たきりになる可能性がきわめて高い。 夜間・休日では7階北病棟を通じて、整形外科常勤医とコンタクトを取る。 その際、過去の放射線治療の有無、予後、およその全身状態を把握しておく。 診断:神経症状および緊急MRI 対策:責任病巣を特定し、緊急手術ないしは症状が軽いうちなら緊急放射線照射 ステロイド投与 ~手術・放射線治療の適応がない場合の対処~ すでに放射線治療後の再発で再照射の適応がない、予後が極めて不良なため手術適応がない場合では、麻痺の回復は見込めないことを明確に伝えるのを原則とする。その上で、リハビリにより、残存する筋力を使っての日常動作訓練を計画する。 リハビリは失った機能を回復するものではない! 残された機能を駆使して自立へと導くものである! • しばしば末期患者では生活が自立できるまでに回復することは困難で、転院を考慮する場合は医療相談室と連携し、受け入れ先の照会を早めに開始しておく必要がある。 • 体位変換困難と知覚障害のため容易に褥瘡が発生する。早期からマットの変更や定期的な体交の計画を立て、褥創対策を進める。 • 膀胱直腸障害のため、 バルーンカテーテル留置、 おむつの使用や摘便などの排便処置を要する。また尿路感染に注意が必要。 • 血管作動神経も麻痺するため、起立性低血圧の他安静時においても血圧変動が大きくなることがある。また体温調節が不安定となることを一般的知識として知っておく必要がある。 16 ③ 各治療法の実際 1. ビスフォスフォネート製剤点滴 骨硬化型を含むすべての転移性骨腫瘍に対して、積極的にビスフォスフォネート製剤の点滴をおこなっており、骨吸収抑制能が最も強力で種々の抗腫瘍効果が期待しうるゾメタを第一選択としている。施行前に低カルシウム血症がないか、腎機能のチェックが必須。投与後の発熱、低カルシウム血症、顎骨壊死の合併症などに注意が必要。 処方例) ゾメタ 4mg + 生食 100ml 20分でdiv 3-4週間隔で反復 2. 放射線治療 初回照射で症状が認められる場合は、適応上の問題はあまり生じない。放射線治療科へ直接コンサルトして下さい.再照射については予後・症状のADLに与える影響度・他の緩和法の可能性および効果を考慮の上慎重な適応判断が必要。放射線治療科もしくは整形外科に相談する。 3. 装具療法 脊椎転移の骨破壊が強い場合に主にコルセットを整形外来で作成しており、 業者の採寸後約1週間で完成。健康保険は使えるが、一旦自己負担(約数万円)となり、申請により返金される。 注意点:作ったが使ってもらえないことが多々あり、説明が重要 「コルセットは本質的に多少窮屈なものである。」 「弱い骨をサポートするものとして今は必要である。」 放射線治療後の骨修復は乳癌では3ヵ月で約7割の患者で見られたとの報告あり。 「骨が強くなってきたら外せるときがくる。」ことなどを説明しておく。 まず装具に慣れるため少しずつつける時間を延ばしていく。 夜間ベッド上で休むときや日中でも臥床時には、緩めたり外すことが可能。 坐位をとったり、廊下を歩いたり、リハビリ時には必ず装着するように指導する。 当たって痛い所は装具士に調整してもらえるので、整形外来に問い合わる。 4. ステロイドパルス療法 脊椎転移により神経圧迫が生じその刺激症状が強い場合が適応。活動性の脊椎転移症例では出血のリスクを考慮し硬膜外ブロックは原則的に行なっていない。各種ステロイド剤による効果の違いは厳密なエビデンスはない。 一例)1日目:ソルデム3A + ソルコーテ フ500mg + ガスター1A (12Hでdiv) ソルデム3A + ソルコーテフ500mg + ガスター1A (12Hでdiv) 2日目:ソルデム3A + ソルコーテフ500mg + ガスター1A (12Hでdiv) ソルデム3A + ソルコーテフ300mg + ガスター1A (12Hでdiv) 3日目:ソルデム3A + ソルコーテフ200mg + ガスター1A (12Hでdiv) ソルデム3A + ソルコーテフ100mg + ガスター1A (12Hでdiv) 症状に応じて、投与量の増減を行なっている。原則的に維持療法としての経口剤の投与はおこなっておらず、必要であれ ばむしろモービックなどCOX2選択 性の高いNSAIDの投与を考慮する 参考文献 「骨転移治療ハンドブック」 厚生労働省がん研究助成金 がんの骨転移に対する予後予測方法の確立と集学的治療法の開発班編 金原出版 17 腹水の管理 腹水(腹腔内の過剰な液体)が少量のときは無症状であるが、大量に貯留すると非常に不快で緊満感、 疼痛が強くなり、 鎮痛薬等での症状緩和は困難となる。 原因は腹膜播種、 腹膜の透過性亢進、低アルブミン、 門脈圧亢進などがあげられ、 原因により対処法、 コントロールの容易さが異なるが、コントロール困難例もしばしば遭遇する。 【基本的治療】 1) 輸液、栄養管理 進行がん患者は経口摂取が不十分で栄養状態が不良であり、低アルブミン血症に陥ることが多い。アルブミンが低いと漏出性の腹水が増加するばかりか、後述する利尿薬などの効果も低下してしまうため、必要に応じてアルブミン製剤の投与が必要となる。また、腹水が存在すると血管内脱水が生じることが多いが、逆に過剰な輸液も腹水の増加につながるため、脱水、電解質異常に留意しつつ微妙な調整が重要である。塩分・水分制限は有用ではあるが、食欲の低下やQOLの低下につながるため、必ずしも推奨されない。 2) 利尿薬 K非保持性のフロセミド(ラシックス)、K保持性の抗アルドステロン薬(アルダクトン、ソルダクトン)の投与を組み合わせて行う。まずはアルダクトン単独で開始するが、夜間の頻尿で睡眠が妨げられないように注意が必要である。 • アルダクトン開始量は 25mg〜 50mg 朝1回 • 24時間で体重が 0.5〜 1kg減少するように 3〜 7日ごとに増量する。 • 時には 300mg/日の投与を必要とする場合もある。 アルダクトンによっても期待した体重・腹水減少が得られない場合はフロセミド(ラシックス) を朝昼2回追加することを検討する。上述したように血管内脱水に陥りやすいので、アルブミン製剤の補充とともに、皮膚のツルゴールや、血液検査での尿素窒素値,ヘマトクリットの変動等をチェックし、過量投与・脱水に気をつける。 【腹水穿刺・排液】 利尿薬の投与と並んで癌性腹水に対する治療の柱である。腹部膨満感や呼吸困難感を早急に改善することができる。効果の持続時間は平均10日間程度で一過性であること、繰り返しの施行が必要となること、 頻回の排液はタンパク質の喪失や電解質の異常につながること、 感染リスクの増大 (特発性細菌性腹膜炎:SBPとの関連性も否定できない)などを認識する必要がある。 穿刺部位はエコーで腹水貯留が多い場所を確認し、腸管穿刺の危険性のないところで、腹壁動静脈の走行しない部位(おおむね腹直筋以外の部位)を選択する。1回の排液は1000 〜 3000mlとすることが一般的で、大量の排液は循環動態に影響するため注意が必要である。輸液やアルブミン製剤の補充とともに排液をすることが勧められる。頻回の排液が必要な場合はカテーテルを留置して、定期的に排液をする場合もあるが、長期のカテーテル留置になるので、感染に対し留意する必要がある。 18 【腹水再還流法】 1) 腹腔-静脈シャント留置術 難治性腹水が適応となる。一般的にDenverシャントと呼ばれ、腹腔内からカテーテルを介し上大静脈に腹水を還流する方法である。症状の緩和が期待できる上、タンパク質の喪失を防ぐことができる。合併症としてはDIC, 心不 全、感染、カテーテルの閉塞、肺 塞栓、癌の全身転移などがあげられる。腹水中に出血がある場合、凝固異常がある場合、感染症等ではDICの発生頻度が高く、禁忌である。癌の全身転移も起こりうる合併症ではあるが、想像するよりは多くないようで、腹水のコントロールに難渋する場合は検討する意義はある。 2)腹水濃縮後注入法 穿刺・排液した腹水をフィルターで除菌、 除細胞を行い、 濃縮した後に静脈内に戻す方法である。本法もタンパク質の喪失を防ぐことができる。合併症も同様に心不全やDICがあげられるが、除細胞するために癌の全身転移は回避できる。癌性腹水の場合は、頻回の施行が必要となるため、本法のみによる治療は適応とならない。 注) 癌性腹膜炎に対する腹水再還流法の成人病センターでの過去の実績については把握されていない。 【抗がん剤投与(化学療法)】 全身状態が良好な場合は、 化学療法も検討するべきである。 抗がん剤の効果が高い癌種 (卵巣癌、胃癌など)はもちろん、効果の低い癌(膵臓癌、胆嚢癌など)でも一度考慮する意義はある。 癌性腹膜炎の場合には通常、腹膜のみでなく多部位に転移していることが多いので、全身化学療法が選択される。用いる薬剤は、腹水治療用というよりは原発臓器の種類によって決定する。 多部位への転移が認められない場合は、必ずしも効果的であるとは限らないものの腹腔内投与も試みられている。抗腫瘍効果とともに腹膜の癒着が生じることにより腹水のコントロールが期待できる。腹水をある程度排液した後に、シスプラチン、カルボプラチン、マイトマイシンCなどを投与することが多い。ピシバニールを投与することもあるが、投与後の発熱や、高度な癒着性腸閉塞を生じる可能性があることに留意する必要がある。 参考文献 「トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント」 医学書院 一般病棟における緩和ケアマニュアル へるす出版 19 腸閉塞の管理 消化管通過障害はその発生部位、機序により対応が異なり、その病態(原因)の把握が大切である。診断のためには、まず病歴・症状の聴取、画像診断(CTは必須、状況が許せば内視鏡検査)などが必要である。腸閉塞は場合によっては状態が急変する疾患なので、腸閉塞を疑ったら迷わず緊急CT(単純CTでも良いが,情報量が多くなるので可能なら造影CTが望ましい)を依頼し、消化器内科医にコンサルトする。 末期状態の腸閉塞に対してイレウス管による減圧は必ずしも必要でない場合が多いが(奏功しない場合が多い)、緊急の対処法として有用な場合もある。イレウス管の挿入は消化器内科医が行うが、X線透視台、チューブの用意が必要であり、オーダー入力した上で放射線診断科受付へ連絡すると手配してくれる。また、とりあえずの処置として経鼻胃管を挿入するだけでも患者の嘔吐、疼痛を軽減するのでイレウス管挿入までに時間を要するようであれば各科で対処していただきたい。 【腸閉塞の原因】 • 癌自体による機械的な閉塞 • 過去の癌治療による閉塞 (手術による癒着、放射線照射後の虚血等による繊維化狭窄) • 薬による麻痺性腸閉塞(オピオイド、抗ムスカリン薬) • 全身衰弱による閉塞 (宿便など) • がんと関係のない良性疾患 (絞扼性腸閉塞、閉鎖孔ヘルニアなど) など 進行がん患者では癌性腹膜炎により、小腸や大腸に多発性の閉塞を起こすことが多い。多くの場合、手術は適応とならないが、腸閉塞を除けば全身状態が良好な場合には手術によりQOLの改善、予後の延長が期待できる症例もあり、迅速かつ正確な判断が求められる。 【手術が適応となる条件】 • 単発の孤立した器質的閉塞:術後性の癒着、孤立性の腫瘍による閉塞 • 患者の全身状態が良いこと;少なくとも2ヶ月以上の予後が見込まれ、多量の 腹水がないことが条件 • 患者が手術を希望していること ~手術の適応がない場合の対処~ 【上部消化管の閉塞】 通過障害による経口摂取の制限、輸液によるQOLの低下、内容物停滞による嘔気、嘔吐などが問題となる。消化器内科医にコンサルトをするのが一番であるが、基本的に次のような方針となる。 20 1. 経口摂取を目指す場合 通過障害を起こしている場所が単発で、放射線療法が施行されていなければ、金属ステントの留置が試みられる。現在、ステント留置は食道癌のみに保険適応が認められているが、胃癌の幽門狭窄や膵臓癌による十二指腸狭窄に対しての有用性を示す報告もみられる。また状況によってはバイパス術などを試みることもある。噴門部の狭窄にステントを留置すると胃酸の逆流症状がひどくなる場合があるので慎重な対応が必要である。 2. 経口摂取が不能で経管栄養が可能な場合 胃瘻による経管栄養を目指す。経鼻胃管の留置は長期にわたると大きな苦痛になるため、長期の予後が望める場合は胃瘻造設を検討する。多量の腹水がある場合でも、腹壁固定具を使用することにより安全に胃瘻造設が可能である。胃切除後の場合、内視鏡的胃瘻造設術(PEG)は困難もしくは不能である場合が多い。内視鏡的腸瘻造設の報告もあるがまだ一般的ではなく、安全性が確立されているとは言えない。全身状態が許せば開腹による腸瘻造設などの手段もある。 3. 経腸栄養が不能な場合. 腸管を栄養投与の経路として利用できないばかりか、閉塞に伴う症状(嘔気、嘔吐)が問題となる。 • 機能的な原因(蠕動運動の途絶)の場合はプリンペラン(60mg/day)の持続皮下注入を試みる。 • プリンペランで嘔吐が増悪する場合は機械的な閉塞を示唆するので中止する。その代わりにH2 ブロッカー、抗ヒスタミン薬とブスコパンを投与する。 • プリンペランが多少とも有効な場合はデカドロン(あるいはリンデロン)10〜20mgの経口投与または皮下注射1日1回を3日間行う。 • サンドスタチン 300μg/dayの 持続皮下注入を行う。 • 上述の方法が無効な場合には、経鼻胃管留置、もしくは排液のための胃瘻造設術が必要となる。 嘔吐を完全に消失させることは難しい場合もあり、実際的な目標は嘔吐回数を1日2 〜 3回に減らすことである。 また経口、経管栄養が不能な場合は経静脈的な栄養に頼る場合もある。予後1ヶ月以内と考えられるような末期の消化管閉塞症例には高カロリー輸液は必ずしも必要でなく、病態に応じた栄養管理が必要とされる。 【小腸以下の閉塞】 単発の閉塞の場合はイレウス管挿入が奏功することもあるが、多くの末期癌患者では多発性の閉塞であり、イレウス管が奏功しないことが多い上、QOLを著しく損なう。緊急の症状緩和、もしくは単発か多発かの鑑別がつかない場合はイレウス管挿入の適応となるが、あくまで一時的な処置であり、単発であれば手術、多発であれば投薬による症状緩和に移行し、イレウス管からの早期離脱を心がける。 21 1. 腸閉塞による嘔気、嘔吐 • 疝痛がなく、腸内ガスがまだ通過している場合には、蠕動亢進薬(ラキソベロン、プルセニドなど)が第1選択薬である。 • 強い疝痛のある場合、蠕動亢進薬は禁忌となる。蠕動亢進薬により嘔気、嘔吐が増悪する場合も中止するべきである。その代わりに酸分泌抑制薬(H2 ブロッカーやPPIなど)と鎮痙薬(ブスコパン)、抗ヒスタミン薬(トラベルミン、ドラマミン)を投与する。 • 悪心・嘔吐管理の目標は悪心を生じさせず、嘔吐をせいぜい1〜2回/日に減少させることである。 • 処方例:セレネース 1.5mg + アタP 25mg + サンドスタチン24時間持続皮下注入。 2. 腸閉塞による疼痛 消化管閉塞特有の疝痛発作と主要による持続的な内蔵痛は区別して考える。持続的な腹痛の場合は、モルヒネやレペタン等の持続投与を行う。 疝痛発作の場合は以下のように考える。 • 蠕動促進薬は中止する。 • プリンペランなどの制吐剤は上部消化管の蠕動を亢進するので中止する。 • 鎮痙剤であるブスコパン(60〜120mg/day)を使用する。効果不十分な場合、ハイスコ(1〜3mg/day)の持続皮下注入を行う。ハイスコは鎮静効果があるので少量から開始する。副作用としてせん妄や錯乱を起こしやすい。 • サンドスタチンの持続皮下注入(300μg/day)を行う。 モルヒネの投与に関しては判断の分かれるところであるが、鎮痛効果と蠕動運動抑制効果を勘案して、投与の是非を決定することが必要である。癌性腹膜炎などで不可逆性の腸閉塞であれば、腸管が動かなくなることを覚悟(ある種、期待)してモルヒネを使用する。 • サンドスタチンは消化管全体の分泌抑制作用を持つ。最大の効果が得られるのは投与開始後24時間後と早い。通常持続皮下注入で投与され、 250μg〜500μg/dayで投与される(保険適応は300μg/day)。サンドスタチンは鎮痙剤ではないので疼痛が出現する場合は鎮痙剤を投与する。口渇が副作用にみられるが24時間以内に消失するといわれる。また、インシュリン分泌が抑制されるため、高血糖に注意が必要である。また、急激に中止した場合の低血糖が問題になることがある。 • closed loop内に貯留した大量の腸液からbacterial translocationが起こり、急に敗血症性ショックが発症することがある。元気そうに見えても急変の可能性があることは念頭に置いて、家族等に説明しておく必要がある。 • 完全閉塞でなければモニラック散、酸化マグネシウムなどを使用してみても良い。症状が増悪するようであればすぐに中止する。 参考文献 「トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント」 医学書院 緩和内視鏡治療 医学書院 22 胸水の管理 がん性胸膜炎に伴う胸水の症状は、病側の背部痛に始まり、一側肺の半分程度で呼吸困難が生じる。治療としては予後や全身状態によって異なり、持続ドレナージが必ずしも適応にならない場合が多い。特に両側性の場合両側持続ドレナージをすると体位変換も行うことができなくなり、 ADLの妨げとなる。 症状の軽度の場合 利尿剤やステロイド(リンデロン 2~ 4mg)が奏功することがある。 症状が強い場合 • 努力性呼吸になった場合は、ドレナージが必要になることがある。アスピレーションキット等で、自然落下もしくは低圧 (5~ 10mH2O)で吸引する。 • 胸水の量に比べて、予想外に排液が出にくいことがある。これはすでに肋膜の癒着が生じて胸腔内が陽圧ではないことを意味する。排液中に患者が強い痛みを訴える場合は、これに該当する。この際にあわてて注射器で陰圧をかけることは、肺水腫の誘因となるので行わない。 • 通常 500~ 1000ml 程度の排液で症状が改善する。 • 胸水貯留が 1ヶ月程度経過すると、 fibrinが肋膜表面に析出し癒着を生じるため、肺の再膨張の妨げとなる。この場合低圧ドレナージであっても痛みを訴えるし、 free air space が生じることで胸膜癒着が失敗する可能性が高い。この場合陰圧を増やしても痛みが強くなるだけで肺の再膨張は期待できない。また、たとえ癒着に成功しても肺機能の低下が大きく、 ADL の向上につながらない。よって胸膜癒着術を考慮する場合は、貯留後 1 ヶ月以内に行うことが望ましい。 胸膜癒着術の実際 • がん性胸膜炎であることが細胞診で確認されている場合、持続ドレナージの上で肺が十分に拡張していることを確認する。持続ドレナージを行っただけで、癒着が生じる場合もあるので、排液が極端に減少したら薬剤を注入する必要はない。 • ピシバニール 5KE を生食 100ml 程度で注入し、 2 時間程度クランプする。この間 5 分に 1 回程度の体位変換(仰臥位・左右側臥位・坐位・腹臥位)を行い、 2 時間後にクランプを解放し持続ドレナージに戻す。アスピレーションキットなどの細いチューブの場合は、fibrinで閉塞しやすいので、こまめにミルキングを行う。 • 発熱はほぼ必発であり、解熱剤で対応する。 • 排液量が 1 日 50ml 以下になったらドレナージを抜去する。 • 持続ドレナージ開始後 3 日目の時点で 1 日排液量が 300ml以上の場合も胸膜癒着術が失敗することが多い。 • アドリアマイシン、ブレオマイシンなどの抗癌剤の胸腔内投与を併用することも行われている。 23 呼吸困難 がん患者の低酸素血症の改善を図ることは、酸素療法しかなく、明らかな肺水腫や気管支喘息の合併によるものでない限り、利尿剤や気管支拡張剤の効果は乏しい。 「呼吸困難感」の改善(頻呼吸の回数減少)には、オピオイドの少量投与が推奨されている。 • オピオイド非内服例では、オプソ 5mg 4~ 6 時間おきの投与。 • オピオイド内服例では 1 日量の 25%増量とする。 評価指標としては SaO2 ではなく、呼吸回数を参照し 1 分間 15~ 20 回程度を目安とする。 モルヒネ 30mg 以上での増量では効果がないことが多い。 がん性リンパ管症やがん性胸膜炎などの場合は、ステロイド(プレドニン 30mg あるいはリンデロン 4mg 程度)が奏功する場合があるが、モルヒネに比べてエビデンスレベルが低く、無駄な投与は慎むべきである。 理学療法は、術後や肺炎等などの一過性の呼吸困難には、有効性が確立しているが、がん末期患者に対しては、体力を消耗するだけになる可能性があり、有効性は確立していない。 死亡直前の高度な呼吸困難では、モルヒネやステロイド等の無効例が多く、鎮静を要することが多い。 頻回の痰の吸引は、患者や家族にとって苦痛が大きく、ハイスコの舌下投与 (0.15~ 0.25mg 1日 1~ 4 回 )などで、気道内分泌を抑える方がよい場合がある。 24 リンパ浮腫のケア 複合的理学療法 (Complex Decongestive P hysiotherapy 以下 CDP と略す)が、浮腫軽減や蜂窩織炎の再燃防止に効果的である。CDP はスキンケア、リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法より構成される。 1. スキンケア 患肢はリンパ液や間質液が停帯しており、創治癒が遅れ二次感染や炎症が起こりやすい。清潔に保ち、 ユベラ、 ザーネクリームなどの保湿剤で乾燥を防ぎ、 虫刺されや切り傷など外傷に注意する。蜂窩織炎を発症するとリンパ浮腫が悪化し、蛋白が組織内に溜まり組織細胞の線維化が起こりやすく皮膚が硬くなることもある。 2. リンパドレナージ 筋肉マッサージとは異なり、軽く手で皮膚に触れる程度の圧で円を描きながら、リンパ節群の方向へ皮膚を 1 秒間に 1 回ずらし緩める。これを繰り返し健康なリンパ節へ誘導することでリンパ管自体の活性を高めリンパ液の排液を促進させる手技である。詳細は成書に譲るが誘導先のリンパ節領域については表1を参照いただきたい。 表 1 誘導先のリンパ節領域1) 左上肢リンパ浮腫→右腋窩部・左鼠径部のリンパ節 右上肢リンパ浮腫→左腋窩部・右鼠径部のリンパ節 左下肢リンパ浮腫→左腋窩リンパ節 右下肢リンパ浮腫→右腋窩リンパ節 両下肢リンパ浮腫→右下肢のリンパは右腋窩リンパ節 →左下肢のリンパは左腋窩リンパ節 3. 圧迫療法 圧迫療法は、組織圧を上昇させることで、ドレナージ後の周径の維持と、筋収縮によるマッサージ効果を期待するという 2 つの目的がある。圧迫療法には、多層包帯法、圧迫衣類があるが、圧迫の必要性を十分理解していただくことが大切である。 圧迫衣類は、生地の厚さや圧迫力、種類が豊富であるため患者に最適なサイズを選択し、周径低下にあわせて小さいものへと変更していく。着用にはピンチ力とコツが必要であり、高齢者の場合には装着補助具の使用や家族の援助を勧める。 4. 運動療法 圧迫下での運動は、筋肉ポンプ作用により皮膚のマッサージ効果とリンパ還流を増強させて循環を促す効果がある。上肢は肩・肘関節・手指屈伸の自動運動、下肢は歩行など負荷の軽いリズミカルな運動が適している。 参考文献 1) 小川 佳宏 . リンパ浮腫 . p43, 保健同人社 , 2004 25 精神的問題 26 適応障害 適応障害とは、明らかなストレス要因を契機として、不安、抑うつなどを起こし日常生活や社会的機能に支障を来す状態をいう。例えば、がんの告知を受けた患者が、通常の心理反応を越えた著しい不安を呈し、日常生活が困難になるといった状況がこれに相当する。 適応障害の治療は心理的援助と薬物療法に大別される。 ① 心理的援助 • 患者の訴えを批判や解釈することなくまず傾聴し、ストレスとなっている出来事が患者にとってどのような意味合いを持つのかを理解する(ごく軽度の適応障害では、患者の話にきちんと耳を傾け続けることだけで症状が軽快することがある) • 誤った情報や理解に基づいて、過剰な不安を覚えている患者には、適切な情報提供を行い不安の軽減に努める。 • 患者会や自助グループへの参加、同病他患との交流で改善を見ることがある。 • 家族や医療関係者との人間関係に問題がある場合は、適切な介入を行い、関係の修復を図る。 • 抑うつの程度が著しい、あるいは焦燥感が強い場合はうつ病との鑑別が必要。 ② 薬物療法 不安、不眠に対しては、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、睡眠薬が中心となる。 <軽度の不安の場合> リーゼ 錠剤 1回 5mg 1日2~3回 <中等度以上の不安の場合> コンスタン(ソラナックス) 錠剤 1回 0.4mg 1日2~3回 <肝機能障害がある場合> ワイパックス 錠剤 1回 0.5~1 mg 1日3回 <入眠困難の場合> マイスリー 錠剤 1回 5~ 10mg 就寝前 レンドルミン(レンドルミン D) 錠剤 1回 0.25mg 就寝前 <中途覚醒や熟眠困難の場合> ユーロジン 錠剤 1回1~ 2mg 就寝前 ロヒプノール(サイレース) 錠剤 1回1~ 2mg 就寝前 27 うつ病 抑うつはがん患者でしばしばみられる精神症状である。がん患者の抑うつは、うつ病と呼ばれる比較的重度の病態と適応障害に属する比較的軽度の病態に分けられる。 うつ病の診断基準は下記の通り。 症状 具体的症状 1 抑うつ気分 気分が沈んで憂鬱、落ち込む 2 興味・喜びの喪失 何をしてもつまらない、楽しめない 3 食欲低下 食欲がない、何を食べてもおいしくない 4 睡眠障害 眠れない、朝早く目が覚める 5 精神運動制止・焦燥感 反応が鈍い、身体がいうことをきかない、苛々する 6 倦怠感・気力低下 だるい、気力が出ない 7 無価値感・罪責感 自分の人生には意味がない、楽しめない 8 思考・集中力低下 決断できない、物事に集中できない 9 希死念慮 早く逝って楽になりたい、死にたい 上記症状のうち5つ(そのうち1か2は必須)あればうつ病 DSM-Ⅳより改変 • がん患者のうつ病の危険因子としては、若年、感情障害・アルコール依存の既往、低いソーシャルサポート、悪い身体状況、不十分な疼痛管理などが知られている。 • がん患者では、がんに伴う様々な身体症状がすでに存在することが少なくないため、精神症状の有無を注意深く確認していく。 • 抑うつ気分の有無については「気分が沈み込んだり、憂鬱になったりすることはありませんか」という質問を、また、興味・喜びの喪失の確認には「普段楽しみにしていることに興味を感じらなくなっていますか」などと訊いてみる。 • 自殺念慮がないか注意を払う。 • 中等度以上のうつ病、自殺念慮がある場合は精神科医にコンサルトする。 うつ病の治療では、①原因療法、②患者教育・精神療法、③薬物療法などが行われる。 ① 原因療法 うつ病の原因として、疼痛や身体機能の低下といった苦痛症状が関与していることが多い。これらの症状を緩和することでうつ病の症状自体も軽減することが期待できる。 ② 患者教育・精神療法 うつ病のメカニズムや治癒する病気であることの説明、薬の効果に関する情報提供などを行い、患者の不安を軽減させる。また、受容的な態度で患者の話を傾聴し、感情表出に対して支持、共感し、心身の保証を行う。 「励まし」は患者の心理的負担を増大させるので行わない 。 自殺念慮のある患者には「自殺をしない」という約束を取り交わす。 28 ③ 薬物療法 各種抗うつ剤を使用する。抗うつ剤は一般に効果発現までに最低2週間を要する。 <軽症例の場合> • SSRI(投与初期に嘔気が起こることがある;ガスモチンを併用すると吐気が出にくい。 ) ジェイゾロフト 錠剤 1回 25~ 100mg 1 日 1 回夕 パキシル 錠剤 1回 10~ 20mg 1日1回夕 デプロメール 錠剤 1回 25mg 1日2~3回 • 四環系抗うつ剤(抗コリン作用少ない。眠前1回投与可能) ルジオミール 錠剤 1回 10~ 30mg 就寝前 テトラミド 錠剤 1回 10~ 30mg 就寝前 • スルピリド(時に錐体外路障害あり) ドグマチール 錠剤 1回 50mg 1日2~3回 <中等度~重度の場合> • 三環系抗うつ剤(抗コリン作用とせん妄の発現に注意) アモキサン 錠剤 1回 25mg 1日 1~ 3 回 ノリトレン 錠剤 1回 10~ 25mg 1日 1~ 3 回 アナフラニール 注射剤 1回 25mg 点滴静注 (生食 250ml に加えて2時間で点滴、1週間継続) 29 せん妄 I. せん妄の診断 特徴: 急激(数時間 〜 数日)に発症し、日内変動がみられる(夕方から深夜にかけて悪化する)。 診断: ①注意力障害・意識障害、②認知障害、③急性発症、④身体的要因の存在があれば 「せん妄」と診断する。 *不穏・興奮のない低活動性せん妄もある。 せん妄診断チェックリスト( DSM-Ⅳ・ ICD-10 による) あり なし 注意力減退・注意の障害‥ぼんやり・そわそわ・意識混濁・不穏・意識障害(JCS: ) □ □認知障害‥記名力低下・失見当識(時間・場所・人物) ・知覚過敏・幻覚 □ □急性発症である‥数時間から数日 □ □日内変動がある‥特に夕方~夜~早朝に悪化する □ □炎症・消耗・術後・認知症などの身体状況を認める □ □ せん妄の原因(身体疾患など)チェックリスト あり なし 電解質異常‥低 Na 血症、低 K 血症、低 P 血症、高 Ca 血症など □ □ 血糖値異常‥低血糖、高血糖 □ □ 肝不全 ‥高アンモニア血症 □ □ 腎不全 ‥腎機能異常、透析による補正後(透析不均衡症候群) □ □ 呼吸器系障害‥肺炎・閉塞性肺疾患(COPD)などによる低酸素・低換気 □ □ 中枢神経疾患‥脳血管障害、頭部外傷、認知症など □ □ 環境因子障害‥長期臥床、身体拘束(一部固定も含む) 、high care room、ICU □ □ 脱水症 ‥水分摂取不足、ADH 分泌異常症(SIADH)など □ □ 薬剤性障害‥オピオイド鎮痛薬、H2ブロッカー(特にシメチジン) 、副腎皮質ステロイド、パーキンソン 病治療薬 、インターフェロン、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬剤(抗不安薬・睡眠導入 薬)など □ □ アルコール障害‥大量飲酒歴 □ □ ビタミン欠乏症‥下痢・皮膚紅斑(ペラグラ) 、全身痙攣・眼筋麻痺(ビタミン B1欠乏によるウェルニ ッケ脳症) 、貧血(ビタミン B12欠乏による悪性貧血) □ □ 甲状腺機能障害‥躁状態(甲状腺機能亢進症) 、うつ状態(甲状腺機能低下症) □ □ II. せん妄の治療 • 先ず、せん妄の原因となっている身体疾患の適切な治療を行う。 • 環境調整:①昼夜リズムの確保=窓際側のベッドとし、 日中の運動、 夜間のリラックスを促す。 ②見当識の援助=時計・ カレンダーを設置する。 ③慣れた環境=馴染みの人・物を配置する。 • 身体的・環境的原因の除去が治療の中心であり、向精神薬処方は治療の補助に過ぎない。抗不安薬・睡眠導入薬の安易な使用により、脱抑制を招いて却って症状を悪化させることがある。 30 せん妄に対する内服処方例 【具体例】 リスパダール (錠剤または液剤) またはセレネース (錠剤粉砕使用)ピレチア (錠剤粉砕使用) (男性 ) 60 歳 1.5mg 2mg 20mg 70 歳 1mg 1.5mg 15mg 80 歳 0.7mg 1mg 10mg (女性 ) 60 歳 1mg 1.5mg 15mg 70 歳 0.7mg 1mg 10mg 80 歳 0.5mg 0.7mg 7mg 上記の抗精神病薬に加えて、下記の睡眠導入薬を加えることもある。 ベンザリン (錠剤粉砕使用) (男性 ) 60 歳 7mg 70 歳 5mg 80 歳 3mg (女性 ) 60 歳 5mg 70 歳 5mg 80 歳 3mg • これで開始して、過鎮静がある場合は減量、充分な効果が得られない場合は増量する。 • 微調整が困難な場合は、早々に専門医(脳神経科)に紹介する。 • 保険病名は、正式な保険適応がないものの、現在のところ「せん妄状態」で通る。 • 患者家族に対しては、別紙「せん妄治療説明書」を示してインフォームド・コンセントを実施する必要がある。 参考文献 American Psychiatric Associat ion: Practice guideline for the treatment of patients with delirium. Am J Psychiatry 156(suppl):1-20,1999 せん妄の治療指針 日本総合病院精神医学会治療指針1 薬物療法検討小委員会 31 せん妄時の注射薬の使用に関して 通常処方:セレネース( 5mg)1 A、アタラックス P(25mg)1A、生理食塩水 50ml、点滴静注 を使用するが、下記の「ハイリスク群」 「スーパー・ハイリスク群」では慎重な配慮を要する。 * ハイリスク群 :以下の内、いずれか一項目でも該当すればハイリスクと考える。 ↓ 【下記の配慮を必ず実施する】 1. セレネース( 5mg)1 A、生理食塩水 50ml、 (点滴静注) *セレネースのみを使用する。 2. 点滴速度は 50ml/時間(約 0.8ml/分)とする。 3. 鎮静化すれば一旦点滴を中止して、使用量を最小限度にする。 4. 心電図モニターを装着する。 * スーパー・ハイリスク群 :①~⑥の内、 複数の項目が該当すればスーパー・ハイリスクと考える。 ↓ 【ハイリスク群での1.~4.に加えて次の配慮を実施する】 5. 呼吸モニターを実施する。 6. 詰所内で観察するなど、経過観察に工夫をする。 • 保険病名は、正式な保険適応がないものの、現在のところ「せん妄状態」で通ります。 • 患者家族に対しては、別紙「せん妄治療説明書」を示してインフォームド・コンセントを実施する必要があります。 参考文献 American Psychiatric Associat ion: Practice guideline for the treatment of patients with delirium. Am J Psychiatry 156(suppl):1-20,1999 せん妄の治療指針 日本総合病院精神医学会治療指針1 薬物療法検討小委員会(p9-11, p19-21, p49-50) ① 衰弱者 ② 高齢者( 60 歳以上) ③ 呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患・脳器質性障害由来の肺機能低下) ④ 心疾患(虚血性心疾患・不整脈) ⑤ 肝障害 ⑥ 腎障害 32 看護 33 Ⅰ.疼痛 1.痛みの初期アセスメントの前提 1) 定期的に痛みについて尋ねること 2) 系統的に痛みをアセスメントすること 3) 患者の痛みの訴えを信じること 4) 患者や家族、状況に応じて適切なペインコントロールの選択肢を選ぶこと 5) タイムリーに、論理的で、洗練された介入を提供すること 6) 患者や家族の能力を高めること 7) 患者や家族が経過を最良のものにコントロールできるようにすること 2.痛みの継続的アセスメント 1) 経時的に痛みの部位・質などを継続してアセスメントする(身体的痛みのフローシートに記載)2) 非言語的サインをアセスメントする 3) 鎮痛薬に対する患者・家族の受け止め方についてアセスメントする 4) 適切な環境が保たれているかアセスメントする 5) ペインマネジメントに対する満足度をアセスメントする 6)患者の心理・社会・霊的側面を アセスメントする 3.がん患者のペインマネジメントにおける看護職の役割 ① 薬物療法において 適切な使用経路のアセスメント、正確なタイムスケジュールや量での使用、レスキュードーズの適切な使用、薬物療法の効果と副作用のアセスメント、患者の生活パターンに沿ったタイムスケジュール、薬物療法についての患者・家族教育、患者とのコミュニケーション、多職種による検討 痛みの初期アセスメントチャート 1. 痛みの部位:「痛みの部位を全て教えて下さい。」 2.痛みの性質:「どんな感じの痛みですか?」 3.痛みの強さ 数値化スケール(NRS)0~10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 4.鎮痛目標はいくつですか? 5.痛みの持続時間、一日の変化 「痛みはいつごろからありますか?」 「その頃から痛みの強さや感じ方は変わりましたか?」 「一日のうちで痛みに変化はありますか?」 「決まった時間に痛くなったりしますか?」 6.痛みの増悪因子と緩和因子 7.日常生活への影響: 「痛みによってどのような影響がありますか?」 8.痛み・鎮痛薬に対する患者や家族の考え方 9.痛みのない時にどのようなことをしたいですか? 34 ② 薬物療法以外の痛みの緩和技術において そばにいること、コミュニケーション、マッサージ、罨法、体位変換、リラクセーション、 イメージ法、気分転換(注意転換)法、音楽療法 ③ 患者・家族への教育 患者や家族に説明を始める前に 1)わかりやすい説明を心がける 2)オピオイドの使用について医師からどのような説明を受け、どう理解しているか把握する 3)患者がオピオイドに対してどのような印象をもっているかアセスメントする 4)患者の主観的な痛みを理解する • 痛みを緩和する意義についての教育 1) 他者に理解してもらえるよう、痛みやペインマネジメントに関する希望を表現する大切さを 説明する 2) 薬剤で痛みを緩和することがよい理由を説明する 3) 患者本人が積極的にペインマネジメントに参加する必要があることを説明する • 薬物療法に関する教育 1) オピオイドについて十分に説明する 2) 薬を飲み続けることがなぜ必要なのか意味づけをする 3) 鎮痛薬の性質や使用方法、副作用について説明する 4) オピオイドに対する不安や疑問を解消する 5) 患者の痛み体験を家族がどう理解しているかアセスメントする II.呼吸困難 呼吸困難は、患者にとってもっとも辛い症状の1つである。不安や死の恐怖につながるため、不安の軽減などの 精神的ケア が大切である。また、患者が楽な体位をとれるように枕やクッション、オーバーテーブルを利用する。臥位に比べ座位は横隔膜が下がり呼吸がしやすいため、ベッドをギャッジアップし 体位の工夫 を行う。リラックスできるように 環境を整備 する事も大切である。 III.全身倦怠感 全身倦怠感も、痛みと同様に主観的な症状であり、全身倦怠感の程度や倦怠感による日常生活行動の制限などを十分にアセスメントすることが必要である。食事、保清など 日常生活への援助 を行い、倦怠感により制限を受けたセルフケア不足を補うようにする。安静にすることや 体位の工夫 により安楽の確保に努める。音楽を聴いたり、散歩をすること、足浴やアロマテラピーなど 気分転換 を図るための工夫も大切である。 35 IV.家族ケア 緩和ケアにおいては、家族を単に患者をサポートする存在としてのみではなく、家族自体もケアの対象としてとらえることが大切である。 がん終末期で症状緩和を受けている患者の家族が持つ問題として、以下のようなものがあげられる。 1. 患者が苦痛をもっていることで生じる辛さ 2. 今後の病気悪化に伴う恐れ・不安 3. 症状緩和に対する気がかり、不満 4. 死期が近いことでの情緒的動揺、不安 5. 近い死に対するあきらめ 6. 患者の役割不遂行に対する心配 7. 面会に来る(付き添う)ことに伴う問題 8. 病名を知らされていないことに伴う問題 看護師は、 家族がどのような問題を抱えているのかアセスメントし、 ① 家族への直接的なケア 、② 患者ケアに関する教育、相談、調整 、③ 患者・家族の代弁・擁護 を行っていく。 参考文献 1) 高宮有介編:n-Books7ナースができる癌疼痛マネジメント、株式会社メヂカルフレンド社、2001. 2) 淀川キリスト教病院ホスピス編:緩和ケアマニュアル タ ーミナルケアマニュアル改訂第4版、大阪、2001. 3) 東原正明、近藤まゆみ編:緩和ケア、医学書院、東京、2000. 36 V.副作用対策 1.嘔気・嘔吐 嘔気は、モルヒネの嘔吐中枢への刺激作用によって発生(経口投与では 18~66%)し、患者にとって非常に不快な自覚症状である。モルヒネ服用後に嘔吐があるとモルヒネが吸 収されないことにより、痛みがそのまま残り、ひいてはモルヒネに対する患者の信頼感が失わ れる。モルヒネ開始と同時に制吐剤を予防的に投与する。モルヒネの催吐作用への耐性は比較 的早く発生し、モルヒネ投与開始から1~2週間で軽減してくる。 ノバミン3錠 毎食後 予防投与 嘔気・嘔吐の出現 他の制吐剤を併用 他の原因を検索 ◆胃内容物停滞による嘔気・嘔吐の場合 ◇がん化学療法 ・プリンペラン錠:1回5~10mg 毎食前・眠前 ◇放射線療法 ・プリンペラン注:1回1~2A 1日3~4回 ◇便秘・宿便 ・ナウゼリン錠 :1回10~20mg 毎食前・眠前 ◇消化管閉塞 ・ナウゼリン坐薬:1回30~60mg 1日2~3回 ◇頭蓋内圧亢進 ◆体動時(前庭器刺激)の嘔気・嘔吐の場合 ◇高カルシウム血症など ・トラベルミン錠:1回1錠 1日3回 無効時 他の制吐剤に変更 原因の除去 ・セレネース錠 0.75mg 眠前 ・セレネース注:0.5~1A+100ml ・リスパダール液 0.5ml 眠前 *ステロイド剤の併用を考慮 無効時 オピオイド投与経路の変更 嘔気・嘔吐が(1~2週間後に) (持続皮下注入法や直腸内投与など) 消失したら経口に変更 オピオイドローテンションを考慮 *オピオイド鎮痛薬の投与開始1~2週間後、嘔気・嘔吐への耐性が出現したら、制吐剤の減量もしくは中止は可能。 37 2.便秘 モルヒネを投与したほとんど全ての患者に便秘が発生し、便通の管理を怠ると、頑固な便秘となり、患者にとって新たな苦悩になる。この作用は鎮痛のために必要なモルヒネ量によって発現し、耐性ができにくいため、どの経路で投与したモルヒネによっても投与が続く限り便秘が続く。従って、モルヒネを反復投与する時には便秘防止策を必ず行わなければならない。 最もよく用いられる緩下剤は、蠕動刺激薬であるセンナ製剤 (ヨーデル、プルセニド) であり、増量しながら適切量を求めて投与すれば、便秘を解消できる。 *デュロテップパッチは便秘の副作用が他のオピオイドに比べて弱いので、オキシコドンやモルヒネからオピオイドローテーションした場合は、下痢に注意し緩下剤の減量を考慮する。 ◆ オピオイド内服開始と共に開始 ・酸化マグネシウム 1.5g 分3 or マグミット 3 錠 分3 ・プルゼニド1~2錠 寝る前 宿便対策 ◇座薬(テレミンソフト座薬) ◇浣腸(グリセリン浣腸) ◇摘便 ◆ 症状が改善しない場合は緩下剤を増量 ・プルゼニド錠 3→4錠/日・ラキソベロン液 15→ 20 滴/日 ◆ 便が硬い場合 ・酸化マグネシウム 2→3g/日・マグミット錠 6錠/日 便 秘 緩下剤減量 下 痢 38 3.眠気 眠気は、モルヒネの投与初期あるいは増量時に出現することがあり、3~5 日で耐性を生じる。また痛みのため譜面が続いていた患者では除痛後、睡眠不足解消のため睡眠時間が長くなることがある。 眠気の出現しやすい時期には転倒などに注意する必要がある。 眠気の観察 呼吸数、意識状態のチェック、眠気の原因について以下をチェック(せん妄を除外) モルヒネ(投与開始時、増量時、過量投与時)、他の薬剤( 向精神薬、睡眠薬など)、全身衰弱、脳腫瘍(癌の 転移)、脳血管障害(出血傾向)、肝・腎機能低下、心不全、高カルシウム、低ナトリウム、高血糖など 眠気の苦痛がない 眠気の苦痛がある 様子観察 眠気の苦痛が消失 眠気の苦痛がある 痛みがない 痛みがある ◆ オピオイド鎮痛薬の過量投与 (話し ◆ オピオイド鎮痛薬反応性の痛みの場合 かけないと眠ってしまうような鎮静) の場合 オピオイド鎮痛薬を増量する オピオイド鎮痛薬を20~30%減量 ◆ オピオイド鎮痛薬が効きにくい痛みの場合 ◆ オピオイド鎮痛薬が至適量の場合 鎮痛補助薬の併用を考慮する オピオイド・ローテーションを試みる * オピオイドの眠気対策として、リタリン(メチルフェニデート)が利用されてきたが、不正処方や濫用が社会 問題化したため、2008年1月よりリタリンの処方は 不可能となった。 4.その他の副作用 排尿障害 モルヒネの経口投与による排尿障害に発生頻度は低い。しかし、くも膜下腔や硬膜外腔投与の場合には、しばしば認められる。モルヒネ投与開始と共に出現した場合には、モルヒネによる副作用を考慮するが、まず、泌尿器科的疾患や他の原因による排尿障害との鑑別診断が必要である。 呼吸抑制 がん性疼痛治療において、鎮痛効果を確認しながらモルヒネを増量しても、重症の呼吸抑制が生ずることはない。痛みが消失した後で、傾眠、呼吸回数の減少があれば、注意を要する。まず、呼吸回数のチェックを頻回に行い、気道を確保し、必要ならば、酸素吸入を行う。意識的に深呼吸を行えない状態であれば、ナロキソンの投与を考慮する。 せん妄 モルヒネの開始・増量時に起こるせん妄については、オピオイドローテーションや減量を行う。 39 参考文献 1)国立がんセンター中央病院薬剤部編著:モルヒネによるがん疼痛緩和 改訂版、ミクス、2003. 2)関西労災病院 緩和ケアチーム編集:がん性疼痛治療マニュアル 第3版改訂、2006. 3)国立病院機構四国がんセンター 緩和ケアチーム:がん疼痛コントロールマニュアル 第3版、2005 4)国立がんセンターホームページ 40 リハビリテーション 41 リハビリテーションにより、身体的、精神的苦痛を緩和させ、短期間でも外泊や退院の機会に繋げ QOL 向上を図ることが大切である。理学療法実施にあたっては、緩和ケアチームに依頼すれば検討後、整形外科医から処方箋が出される。 理学療法の目的1) ① 疼痛や苦痛の緩和、② ADLの拡大、③ 精神的な援助 実際的方法 1.物理療法 1) 温熱療法 作用 :① 疼痛緩和,② 筋緊張低下,③ 結合組織伸張性増大,④ 血管拡張,⑤ 新陳代謝亢進 禁忌 :① 循環障害,② 知覚障害,③ 急性炎症,④ 出血傾向,⑤ 開放創 種類 :① ホットパック,② マイクロウェーブ,③ 超音波 2) 寒冷療法 作用 :① 疼痛緩和,② 筋緊張低下(温熱より深達性効果+),③ 結合組織伸張性低下, ④ 一時的血管収縮と二次的血管拡張,⑤ 新陳代謝抑制 禁忌 :①末梢循環障害,②知覚障害,③心血管系疾患,④寒冷過敏 種類 :①アイスパック,②アイスクリッカー 3) 経皮的電気刺激療法( TENS ; Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation) 理論 : Gate Control Theoryの理論に基づいた電気刺激療法 特長 :低周波帯域の周波数を用い、慢性疼痛に対する持続的な鎮痛効果を期待する低頻度 刺激(1~20Hz)と急性疼痛に対する即効性のある鎮痛効果を期待する高頻度刺激(20~200Hz)がある。リンパ浮腫に有効との報告2)もある。 4) マッサージ 作用 :① 疼痛緩和,② 筋緊張低下,③ リンパ浮腫軽減,④ 結合組織伸張性増大, ⑤ 睡眠への導入,⑥コミュニケーション形成 禁忌 :① 局所の炎症,② 出血傾向 種類 :① 軽擦法,② 強擦法,③ 揉捏(じゅうねつ)法,④ 圧迫法,⑤ 振動法,⑥ 叩打法 2.関節可動域練習 病態 : 関節固定を行うと3日目に顕微鏡レベルで、7日目には臨床的に拘縮が生じる3)。 実際 : 他動または自動介助運動での関節可動域練習を1日2回、全可動域にわたって10回ずつ行う。 膝関節屈伸や足関節背底屈運動は、下肢倦怠感軽減にも有効である。 3.筋力維持・強化練習 病態 : 絶対安静の状態では1週間で10~15%、3~5週間で50%の筋力が低下する3)。 実際 : 下肢伸展挙上(SLR)、尻あげ、立ち上がり、ペットボトルを把持しての肩屈伸、肩外内転、肘屈伸42 などを無理なく継続できる範囲で勧める。 4.呼吸介助練習 安楽肢位のポジショニングを行い、深呼吸や腹式呼吸などを指導する。浅く呼吸回数が多いときは、筋疲労を少なくするため呼吸パターンを整え、上背部の筋肉痛を訴えるときにはマッサージを併用する。 去痰困難な場合には、胸郭を呼気時に圧迫するスクイージングを試みる。深呼吸を促しながら、口すぼめ呼吸で痛みを起こさないように呼気終末まで圧迫を加える。 上葉では、鎖骨に触れないように上部肋骨(第 4 肋骨付近)に手を当て、斜め下方に圧迫を加える(図 1)。 下葉では、側胸部(第 8 肋骨付近)に手を当て、弧を描くように引き下げながら圧迫を加えると良い(図 2)。ただし、実施にあたっては医師にスクイージングの禁忌および注意する点の有無を確認し慎重に対応すべきである。 図 1 上葉のスクイージング 図 2 下葉のスクイージング 5.リンパ浮腫治療 リンパ浮腫治療としては、表1に示す療法が行われている。複合的理学療法については、リンパ浮腫のケアで概説した。 表 1 リンパ浮腫の治療4) 1. 圧迫療法 包帯法(多層包帯法) 圧迫衣類(ストッキング、スリーブなど) 空気圧迫療法 2. リンパドレナージ 徒手リンパドレナージ (Manual Lymphatic Drainage ; MLD) 簡易リンパドレナージ (Simple Lymphatic Drainage ; SLD) 3. 運動療法 4. 複合的理学療法 5. 薬物療法 6. 外科的療法 7. その他 43 6. ADL 練習 起き上がりや立ち上がり、歩行時における動作のコツの指導や杖など補助具の処方が重要である。起き上がりは、臥位から側臥位になり、上肢の筋力を補うため両下腿部をベッドより垂らす重心移動を利用したパターンを指導する。立ち上がりにおいては、重心を前方に移すため、お辞儀を意識さすと良い。歩行は、下半身麻痺や筋力低下により起立困難であってもチルトテーブルを利用すれば立位保持可能であり、前段階として使用すれば精神的効果も大きい。特に骨転移患者のリスク管理は、病的骨折や脊髄障害を生じて QOL を低下させないように以下の配慮が必要である。 ① 体幹装具作製や杖などの補助具の選択 ② 日常生活においては、四肢や脊椎の捻り動作など骨負担を避ける動作の指導 ③ 環境を整備し転倒、転落に配慮 ④ 家族への介助指導 7.退院時指導 家族指導や自宅の環境評価と住宅改造、福祉機器のアドバイスは、転倒、転落などの事故を未然に防ぐため重要である。また、介護保険や身体障害者手帳を申請し、公的援助を受けることで家族負担や不安を軽減させる。 参考文献 1) 仲 正宏:終末期ケア.図解理学療法技術ガイド(第2版).文光堂,2001,pp409-413 2) ロバート・トワイクロス,ジャクリーン・トッド,カレン・ジェンス 編集,季羽倭文子,志真泰夫,丸口ミサエ 監訳:リンパ浮腫―適切なケアの知識と技術―.p249-262,中央法規,2003 3) 田沼 明,辻 哲也:進行がん患者に生じる廃用症候 群の予防の実際. 緩和ケア 16:23-27,2006 4) 青木 朝子,辻 哲也:リンパ浮腫治療のエビデンス.緩和ケア16:44-48,2006 44 社会的支援 45 医療ソーシャルワーカーによる社会的支援 がん患者・家族は、長期療養による医療費、生活費等の経済的不安、在宅療養、介護等の生活の不安、回復が不可能だというショック、死への恐怖を持つ。緩和ケアにおける社会的支援の役割も重要である。がん患者が利用できる資源は、以下のように多岐にわたるが、資源利用の過程で、患者・家族の精神的サポートをしていく必要がある。医療ソーシャルワーカーは、患者を、がん という疾病を持ち治療しながら、就労・学業・家庭生活を送っている、一人の生活者としての視点で支援している。 1. 患者・家族への支援の手順 1) 患者・家族と面談し、抱えている問題を把握するとともに、回復が見込めないというショック、退院不安等の感情を受け止め、精神的サポートを行う。 2) 問題を整理し課題を検討する。 在宅療養をする上での問題(家族の介護力、住宅状況、必要な医療処置、患者・家族の不安・ニード)、ホスピスまたは療養型病床への転院をする上での問題(病状、経済状況、患者・家族の不安・ニード{特に患者自身のホスピスへの抵抗 })を患者・家族より聴き取る。 3) 下記のような諸制度の中から、利用可能な制度について情報提供するとともに、関係機関と連絡調整するなど、手続きの援助をし、経済的負担・心理的負担の軽減を図る。 4) 緩和ケアチームで決定した目標設定に沿って、情報収集・連絡調整を行う。 ① 院内職員(主治医、看護師長、緩和ケアチームの他職種)との連絡調整を行う。 ② 地域の往診医、訪問看護、ホスピス、療養型病床について情報収集するとともに、受け入れの可否についての、連絡調整をする。 5) 患者・家族に退院後の選択肢について説明する。資源を情報提供し、自己決定できるよう援助する。在宅療養、転院への不安について精神的サポートを行う。 6) 退院に向けて、往診医、訪問看護ステーション、ホスピス、療養型病床、ケアマネージャー等との、書類のやりとりおよび詳細な連絡調整を重ねる。 7) 患者・家族の療養場所が移行することへの不安・ショックは大きく、また家族間での意向の違い、病状の変化に伴う気持ちの変化もあるため、状況により、面談を重ね、退院後の方向を軌道修正していく必要がある。 46 2. がん患者が利用できる主な社会資源 1. 経済的問題に関する資源 1) 医療費の援助 ① 高額療養費制度(月毎に自己負担限度額を超えて支払った医療費が払い戻される) ② 公費負担医療費助成制度:障害者自立支援制度、小児慢性特定疾患治療研究事業、 生活保護制度等 2) 生活費の援助 ① 社会保険の傷病手当 , ② 雇用保険の失業手当 , ③ 障害年金 , ④ 生活保護 , ⑤ 生活福祉資金貸付制度等 3) その他 ① 身体障害者手帳制度(義肢、装具、車椅子、電動ベッド、ストマ用装具費用等の助成)② 税金の医療費控除制度等 2. 在宅療養または転院に関する資源 1) 在宅療養 ① 医療・看護の継続サポート 往診医(がん末期を 24H 体制でサポートする往診医が増えてきている) 、訪問看護ステーション、緊急時受入病院 ② 介護のサポート 介護保険制度(対象: 65 歳以上の人および 40~ 64 歳の特定 16 疾病の人。 H18 年度より、特定 16 疾病に末期がんが加わった)による、訪問介護、訪問リハビリ、デイケア、福祉用具の購入・貸与、住宅改修、介護施設入所等 2) ホスピス(緩和ケア病床)または療養型病床への転院
このドキュメントはインフォメーションを伝えるためしかありません。著者の立場および記入されることは事実かどうかはうちの認識を表すものではなく。
...... に有用
大阪府立成人病センター 缓和ケア?マニュアル Ver 10

html版   クイックビュー
←ゲムシタビン+カルボプラチン疗法の场合 - SGSG 残 肾 机 能 を 生 か す 腹 膜 透 析→
関連ドキュメント 最後の更新
  •  パンフレット海外では? 海外では 、各国に 1箇所ほどの専門のセンターがあり治療にあたっています。オーストラリアにはこの疾患に特化した国立腹膜切除センターが...
  •  週刊やすいゆたか'12年1月26日第16号 西田幾多郎の人生 今日26日は週刊やすいゆたか’12年1月26日第16号西田幾多郎の人生 今日26日は、西田幾多郎の人生について京都ラボール学園で語ることになっている。彼の人生と彼の哲学が...
  •  PowerPoint プレゼンテーション - 社会保険中京病院胃癌術後地域連携パス 医療者用 病院地域連携室: Tel ( ) 主治医患者名 ( ) 連携医療機関: Tel ( ) 主治医基幹病院で手術治療をされ...
  •  大腸癌の病期分類について大腸癌の病期分類について ※癌(carcinoma)のみ適用。肉腫やリンパ腫は、この TNM 分類は適用外。 1.病期分類(UICC TNM分類第6版) 1) T分類...
  •  病理学各論 消化器系 悪心、嘔吐病理学各論 消化器系 悪心、嘔吐  032025 戸谷桂子 悪心とは、吐き気のことで、胃の中にあるものを吐き出したいという切迫した不快感を指し、嘔吐と...
  •  私たちの职业病私たちの職業病職業病とは?職業病とは、職の労働条件、環境などによって起こるものです。いわゆる過労による病気を指します。 長く続く疲れで、内科や外科に行...